イタリアのメロディック・デスメタルバンドが2003年にリリースした2ndアルバム。
メロディック・デスメタルを語る上で欠かす事の出来ない問答無用の大傑作。
以前のレビューを加筆・修正した上で語るので、2012年現在のところバンドとしてリリースしているアルバムは4作。その4thアルバムを聴いて、このバンドはこの2ndを超える作品を作り上げることは出来ないだろうと悟った。いや、他のどのバンドもこの作品を超えるものをリリースするのは不可能だろう、出来るのはこのバンドだけだと思っていた。が、4thによってその希望は完全に消滅したように感じたのだ。
そういうわけで、今回このアルバムレビューを加筆・修正した。
メロディック・デスメタル界の巨人たちが原点回帰をはかるようにオーセンティックなヘヴィメタルへとシフトしていく中、あえてメロデス界に留まりその土俵の上で美しさを極限にまで磨きあげた異端にして孤高のバンド、それがDark Lunacy。ブルータルであること、メロディアスであることをより進化・深化させ、緩と急、静と動、美と醜、全てにおいて最上・最高を求め、それを具現化させた究極のアルバム。
こうした大げさな叩き文句を並べても、このアルバムにとっては少しも誇大表現とは言えない。
音楽性でいえば、デスメタルにシンフォニックな要素を導入したというよりクラシック音楽をメタル的なアレンジで演奏しているようなサウンドで、それは弦楽器の導入がそう見せている部分もあるが、それよりは楽曲の構成や展開、GやBassやDrなどのバックの演奏も含めてクラシック音楽をベースに音楽を組み立ている感じだ。そうした面からも、ヴァイオリンなどの弦楽器の導入は必然の結果だったのだろう。
メロディック・デスメタルの中にシンフォニックな要素や、クラシックのフレーズ、ヴァイオリンなどの生弦楽器を導入したのではないのだ。そこが他のシンフォニック・デスメタル勢との決定的な違いで、このアルバムにおいてはクラシックにメロディック・デスメタルの要素を加えた音楽性をとっているのだ。
そもそもこのアルバムにおいて、本来のリードギターの役割はほぼ全て弦楽器が取って代わっている。メインメロディは生弦楽器が奏でているし、ギターソロと思われるパートはヴァイオリンソロ。また逆に、本来のリズムギターはクラシックにおける生弦楽器のフレーズをトレースしている状態。
楽曲の展開はドラマチックかつプログレッシブで、緩急と静動の落差が激しい。メロディック・デスメタルとしてのブルータリティを失わない上で、アグレッシブなパートと静かでメランコリックなパートが頻繁に切り替わりつつ立て続けに襲ってくる。楽曲の構成力が実に見事だと言う他ない。
"Fragile Caress"
全編がブルータルであり、全編がメランコリック。この曲こそDark Lunacyそのもの。
このアルバムレビューで語った事は全てこの曲に当てはまると言ってよい。3rdの"Snowdrifts"と双璧の人生で出会った最強の楽曲。自分の音楽的趣向がこの曲に余すところなく全て揃っている。
"Through The Non-Time"
緩急の落差を抑え目にストレートな激しさを前面に押し出した楽曲。もちろん生弦楽器大活躍、だけど、ギターも他の楽曲に比べれば活躍してる方。でも、やっぱりメロディは弦楽器がとってるんだよね。
"Serenity"
1stの"Dolls"を更に洗練させたような楽曲で、緩急の落差がハンパない。アルバム中でもっともドラマチックかつ複雑な展開を持った楽曲。イントロで静から動へ変化したと思ったら、すぐに落ちてピアノをバックにデス声で語るような展開。ずっとそんな調子かと思ったら、一気に駆け上がってまた落ちる…泣ける。
"Die To Reborn"
アルバム中で最もアグレッシブかつドラマチックなのはこの曲。前半は攻めの展開だが、中盤はシアトリカルと言った方がいいようなドラマ性、再び激しく転調してエンディングに至る。構成力が素晴らしい。
"Forget-Me-Not"
展開・構成が複雑すぎるのだが、この1曲でオペラをやってるんじゃないかというくらいドラマ性が高い。緩急とか静動どころではなく、次々と場面が転換していくかのように曲調もメロディも変化。物語の一部分を切り出したのではなく、この曲が一つの物語と言ってよい。約8分の大作だが、これでも短いくらい。
1曲目の小曲と9曲目の"Lacryma"という3分半の曲以外はどれも5分を超える楽曲で大作志向だが、個々の楽曲自体のドラマ性が際立っているので楽曲の長さを苦にすることは全くない。そもそも展開が複雑な曲ばかりなので、楽曲自体の構成から考えれば6分台の曲が中心ながらかなり詰め込まれている印象がある。
耽美系のメロデスということでゴシカル・デスメタルに括られることの多いアルバムだが、前述のようにクラシック音楽をベースとしたような展開・構成の音楽性なので、ゴシカルとするには無理がある。
唯一無二の音楽世界。
全ての要素が、まるでそれが必然であるかのように完全に調和している。
耽美メロデスの極致。
人生で出会った最高のアルバムであり、それは今後も変わらないだろう。