メロディック・デスメタル
まぁ、ごく普通の一般的な音楽愛好家には理解不能な音楽でしょう。
特にメタル系すらまともに聴いたことのない人は、どんなに『いいよ〜』と薦められても"デスメタル"という単語だけで聴く気すら起こらない音楽でしょうね。
さて、どこが敬遠されてしまう原因なのでしょうか?
思うに、デスメタルという単語がいけないんじゃないかな。
しかし、こればかりはもうどうしようもありません。
ただ、この場合はほとんど『聴かず嫌い』な人達が多いでしょう。
聴いたことがあって嫌いだという場合、その理由はなんでしょう?
これは大体見当がつきますね。
1)あのゲロゲロなヴォーカルが気持ち悪い
2)何だか目の回るようなスピード感がクラクラする
3)ドカドカ・ギャンギャンと演奏がうるさくて耳が痛い
4)メンバー写真が怖かったり不潔そうだったりする
と、こんな感じなのでしょう。
さて、そんなメロデス嫌い&メタル初心者に贈る名曲10選。
今回は、上記の1~3をクリアするような楽曲の中で、メロディック・デスメタルならではの"美しさ"に焦点を合わせた楽曲を厳選してみました。なので、疾走曲はほとんど無し。
4に関しては…まぁ、微妙です(笑。
Snowdrifts/Dark Lunacy
2006年発売"The Diarist"収録のゴシカル系メロディック・デスメタルの超名曲。
Dark Lunacyという存在自体がすでに孤高の域なのだが、この曲はそのバンドの中でも別格。
voのメインは、哀しげに切々と歌う女性の方。本来の男デスvoとはデュエットする形。
本来のメインvoである男デス声がサブ扱いなのは、そもそものサビ部分が女性の方だから。
先述の哀しげな女性voと、激情をたたえた慟哭とも言える男デスvoの対比が素晴らしい。
曲調自体はミドルで、『激しい』という感じではなく、どこまでも美しい楽曲。
Elegy/Amorphis
1996年発売"Elegy"収録のタイトルソング。初期メロディック・デスメタルの代表曲。
2007年発売のアルバム収録のSilent Watersもそうであったが、こうした慟哭ソングを作らせたらこのジャンルで右に出る者はいないとまで言われる(?)Amorphis渾身の1曲がコレだ。
…とは言っても、もはやメロディック・デスメタルと呼んでいいのかどうか迷うほどvoのフューチャー度はクリーンvoの方が圧倒的に多い…というか、ほぼ全てクリーンvoと言っていい。
イントロの美しいピアノの旋律から先、サビも含めてクリーンvoで延々と静かに展開していくという、ともすれば普通のパワー・バラードなのだが、圧巻は3分15秒すぎのデスvoを使ったパート。
この慟哭はメロディック・デスメタルという土壌からしか生まれないんじゃないかと思う。
疾走パートなど一切なし。 長尺とも言える7分半の楽曲だが、よくぞこの長さにまとめたと感じるほど、濃く深い。まったく無駄な部分を感じることはない。
これを聴かずしてメロディック・デスメタルを語るな!ってくらいの名曲。
Icipher/Dark Tranquillity
2007年発売8th"Fiction"に収録されていた、知名度は低い隠れた名曲。
6thのThe Treason Wallに匹敵するバンドの最高傑作かと思う。
ギターのヘヴィなリフと対比する形で、ピアノの切ないメロディが終始鳴り響く。
ピアノのメロディが無かったらここまでの名曲と成り得たか甚だ疑問だが、Dark Tranquillity独特の美的感覚で相対する要素を慟哭メロディック・デスメタルという形に纏め上げた傑作。
Mikael Stanneのvoは、もはや美しいとかいうレベルじゃないな。デス声が泣いてるんだよ。その感情が聴き手にヒシヒシと伝わってくるんだよ。圧倒的なvoの表現力だ。
Autumn's Grief/Eternal Tears Of Sorrow
2000年に発売された3rd"Chaotic Beauty"に収録されている、耽美メロデスの名曲。
voはデス声と気怠いクリーンvo…と言っても、上手くはない…の使い分け型。
バンドの持ち味がゴシカルというか耽美的なメロデスなので、発表されている曲のどれもが爆走しているわけではないし、デスメタル的なアグレッシブさとか激しさは全く感じられない。
もちろんこの曲も同様で、ゴシックメタルをデス声で歌っているよう。
イントロのピアノで哀愁感をバリバリに放射。
中盤以降の展開が絶妙で、ゾクゾクする女性の囁き声からGソロ〜サビ〜Gソロの流れで感動。
惜しむらくは、デスvoもクリーンvoも上手くはないこと…それだけが残念だ…
Ocean's Elysium/Battlelore
ゴシック・デスメタル・バンドBattleloreによる、2007年発売"Evernight"に収録。
フォーキッシュでもあり、ヴァイキング的でもあり、ゴシカルでもあるが、デス声をフューチャーしている割にはデスメタルの要素が一番薄いという、ある意味不可解なバンド。
男デスvo、女クリーンvoと妖し気なメンバー数名存在する(笑。
大仰なイントロから始まり、ゴシック的に展開。女性vo主体で、デス声はごく一部数秒のみ。
このバンド、デス声の扱いが少ない上、曲調が曲調なのでデス声が必要なのかも微妙。
そんな感じなので、始まってからは『淡々と進むゴシック・ソングか?』と思ってしまうが、最後の最後、残り50秒くらいの展開で悶絶必至。いきなりテンポアップして、耽美メロデスに変貌。
ドラマティック・デスメタルと呼ぶのが正しいのかもしれない。
Square Nothing/In Flames
2000年発売5th"Clayman"収録の楽曲で、In Flames史上の個人的代表曲。
このバンドの代表曲と言えば一般的にはEmbody The Invisibleと思われているが、個人的にはメロディック・デスメタルの何たるかを表現している本楽曲がバンドの最高峰だと信じて疑わない。
メロディックデスメタルは、美と醜の対比がより一層「美」の方を際立たせている
メロディック・デスメタルを語るにあたって"静かであること"を強調するのはおかしいと思うかもしれない。メロディック・デスメタルである以上、"激しい"のは当たり前なのである。静かであることは、ある意味"異端"なのだ。それが本作を"傑作"と称している理由である。
静かであり、激しくもある。
叙情的なメロディ、そして圧倒的なドラマ性。
凡百のフォロワーでは決して辿り着けない境地に達してしまったように感じる。
In Love With Insanity/Tracedawn
2008年発売の"Tracedawn"でデビューした、メロディック・デスメタル界驚異の新人。
メロデスと言っても新世代メロディック・デスメタル系で、王道ヘヴィメタルの色合いを濃く残しながら、デス声をメインに据えたアグレッシブな楽曲を披露するタイプ。
本楽曲はそのデビューアルバムのハイライトとも言える傑作。
基本はミドルテンポのヘヴィな楽曲なのだが、重く激しいパートとメロウなパートの落差が絶妙で、voのスタイルもデス声は極悪、対してクリーンvoは線が細くか弱い透き通った声。
イントロはピアノ、そこからハードでヘヴィな展開。サビで一気にメロウに転調。
そのサビでイントロのピアノがリフレインするのが泣ける。
とても新人とは思えぬ大胆なソングライティング。
The Departure/Epicurean
2006年発売(2008年再発売)の1st"A Consequence Of Design"に収録されている楽曲。
紹介する楽曲も、この辺りから少しずつハードに(笑。
メロディック・デスメタルというかメタルコアなんだが、ほぼグロウルなvo主体で進む上、楽曲のスタイルはメロデスにより近いように感じる。アメリカ出身ながら欧州的な音楽性を持っている。
イントロから本編までずっとvoも含めてメロデスっぽく進行するが、ブリッジからサビで状況は一転。流麗な叙情メロディでメロウな展開。voも憂いを帯びたクリーンvoで歌われる。
本編とブリッジ&サビのこの落差がこの楽曲の魅力。
中盤からエンディングに向かってメランコリック度を増しながら疾走。Gソロで爆走、エンディングでのサビメロを一旦疾走させながら、最終的には通常のサビメロでエンド。
ハードでアグレッシブな中にも泣きのメロディが満載。
Morphogenesis/Scar Symmetry
2008年発売の"Holographic Universe"に収録。
もはやメロディック・デスメタルと呼ぶことも出来ないメタルソングだが、元はSoilworkタイプ(と言っても一般の人には分からないかも)のメロデスをやっており、本作もデス声は導入。
楽曲的にはミドルテンポで、デスvoとクリーンvoが半々くらいで同居。
このバンドはサビでのクリーンvoのヴォーカルメロディの作り方が上手い。伸びやかで、それでいてメロウで、デス声のパートとの対比で言えば、正に美女と野獣の世界。
で、このvoなのだが、デス声もクリーンvoも同一の人物が歌っている。
上記のMovieを見てもらえば分かるが、このスキンヘッドのイカツイおっさんのどこからあの伸びやかで透き通った声が出ると言うのだ! …いや、デス声はイメージ通りなんだが(笑。
Freedom/Blood Stain Child
日本が誇るメロディック・デスメタル・バンドの、2007年発売の4th"Mozaiq"収録の楽曲。
最初に聴いた時は日本のバンドとは知らなかったし、何よりその音楽性に驚いた。
デジタル系…というか、ハイパートランス/レイブ系のダンスミュージックとメロディック・デスメタルの融合…いや、トランスをメタルアレンジにしてデス声で歌ってる感じだ。
個性的なんてもんじゃなく、我が道の行きっぷりが凄まじい。
イントロ聴いただけだと、きっとメロデスだとは誰も思わんだろうな。
本編もトランス系で進行。voだけメロデス。演奏がトランスにしてはハードかな、という感じ。
まぁ、実際にTRFのEZ DO DANCEをレイブの味を残しながらカバーしてるくらいだから。本人達は至って真面目にダンスミュージックとメロデスの融合を押し進めている。
EZ DO DANCEのカバー → YouTube - Ez Do Dance (TRF Cover)
他にも、Luna SeaのTrue Blueを完全コピー(デス声だけど(笑))してます。
True Blueのカバー → YouTube - True Blue (Luna Sea Cover)
いやいや、こりゃあ凄い。
このバンド、メロデス好きも初心者も、一度は聴いておくべきです。
さてさて。
いかがだったでしょうか?
これがメロディック・デスメタルだ!って声を大にして言える選曲ではなく少々邪道ですが、初心者の入口としてはこのあたりの選曲が妥当なのではないかと思いますね。
しかし、これらの曲に代表されるように、メロディック・デスメタルとは美しい音楽なのです。
曲が速かったり、ハードでヘヴィだったりするのは当たり前。それらを土台にして、バンドとしてどれだけ美的感覚を発揮出来るかどうかがメロデスとしての生命線なのです。
他にも、美しく、カッコいい曲は沢山ありますよ、メロデスには。
さぁ、みんなもメロデスを聴いてみましょう♪
2009.06.10