Manifesto/Deadlock
ドイツのエクストリーム・メタルバンドが2008年にリリースした4thアルバム。
1stは自主制作、2nd"Earth Revolt"からLifeforceにてリリース。
メンバーはSebastian Reichl（ギタリスト兼キーボーディストでありほぼ全曲の作曲とプロデュースを行なっている）を中心にTobias Graf（Dr）が結成以来のオリジナル・メンバー。Sabine Schererは2ndでキーボード兼クリーンvoとしてゲスト参加（本アルバムから正式に加入…ヴォーカリストとして）。
ちなみに、メンバーはほぼ全員が菜食主義者。
最初期は北欧…それもスウェディッシュ系のメロディック・デスメタルをやっており、気持ち程度にクリーンvoが使われているがモダンな要素はほとんど無く、またシンフォニックなシンセも入っていてもシンフォ・メロデスというほどでもなく、ただただ"良いメロデスアルバムだなぁ"という印象でしかない。
2ndの"Earth.Revolt"も基本はメロデス路線だったが、"Awakened By Sirens"あたりの楽曲で今に至る音楽性が形成されたように思う。いわゆる、フィメールヴォーカル主体にしたモダンなエクストリーム・メタル。デス声はあくまでもサブ扱いのアクセント。楽曲展開も起伏を重視してキャッチーなサビメロを配す。
3rdではメロデス路線から外れて…かといってモダンかというとそうでもなく、もっとストレートなアグレッションを前面に押し出した上で、Sabine Scherer嬢のキャッチーな歌メロで展開の強弱を表現するスタイルに転換。Deadlock的なエクストリーム・メタルはこの3rd"Wolves"で確立されたと言っていい。
さて、本作"Manifesto"
音楽性自体は3rd"Wolves"から正常進化。つまり、メロデス由来ながらもモダンさもあるアグレッシブ&ブルータルなデス声パートと、Sabine Scherer嬢のアンニュイな歌メロパートを組み合わせたサウンドだ。
本作の最大の変化であり進化とも言えるのが、歌メロパートの作り込みというか見せ方だろう。
Sabine Scherer嬢が正式に加入したことによってヴォーカル的な主導権は明らかに女性クリーンvoへと移り、デス声に関しては大幅に減少することとなった。確かにブルータリティを前面に押し出すデス声パートというものは存在するが、そうしたパートでさえSabine
Scherer嬢の歌メロパートをいかに活かすかを計算して効果的に配置しているように思える。実際、歌メロパートでデス声がバッキングに回る場面も多々ある。Sabine
Scherer嬢のパートは何もエモーショナルな場面だけではなく、アグレッシブな疾走パートでも配されているし、そもそも全編をほぼ歌いきってしまう曲まで存在する徹底ぶり。そうした意味ではもはやモダンメロデスの域に入っているのかどうかも怪しく、女性ヴォーカルのエクストリーム・メタルと言っていい。
3rdからしっかりと受け継いだアタック感の強いスラッシーなデス声パートは基本としてブレイクやテンポダウンなど使わずに突進力が高めで力強さも十分にある。モダン・メロデス、あるいはジャーマン・メタルコアの路線に乗っているとも言えるが、ただブルータリティを主張するだけでなくメロディアスでもあるのが特徴。最初期のメロデススタイルよりは遥かにモダンな方向性へ転換しており、同じくジャーマン・メタルコア/メロデスバンドのFall
Of Serenity的と言ってもいい…と書いているが、実はこの後に実際にFall Of SerenityのメンバーであるJohn Gahlert（Fall Of
Serenityではヴォーカリストだがベーシストとして加入、後にメインのデスヴォーカリスト脱退に伴ってヴォーカルへチェンジ）が加入。まぁ、2nd"Earth.Revolt"期のクサメロスタイルが完全に消滅したかと言えばそうでもなく、過去に養ってきた音楽性も見事に活かして昇華させているのは嬉しいポイント。モダンなエクストリーム・メタルスタイルの中にもこうしたクサメロ・メタルのフレーズを入れ込んでいるのはDeadlockの何たるかを表している傑作に相応しいアルバムと言えるだろう。
デジタル的な処理、いわゆるシンセの活躍度は前作の比ではなく、サイバー感を押し出したりピコピコ音だったりピアノ音までフューチャーしている。ギターもしっかりとリフでメロディを積み上げたりリードが流麗なフレーズを披露したりと見せ場はたっぷりだが、シンセの作り上げるメロディはなかなかに多い印象。
アタック感の強いアグレッシブな疾走曲を揃えているのも特徴的で、それもあってデス声パートでのブルータリティと歌メロパートでのメランコリーが強い相乗効果を発揮していると思う。
Deadlockのアルバムでイチオシの傑作盤なので、未聴の人には強く購入をオススメします。
女性vo入りのエクストリーム・メタル…The Agonistとかが好きなら迷わず買いの傑作盤。
